フォトダイオードとフォトコンダクターのチュートリアル
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フォトダイオードのチュートリアル
動作原理
接合型フォトダイオードは、通常の信号ダイオードと似た動作をする部品ですが、接合半導体の空乏層が光を吸収すると、光電流を生成する性質があります。フォトダイオードは、高速なリニアデバイスで、高い量子効率を達成し、様々な用途で利用することが可能です。
入射光の強度に応じた、出力電流レベルと受光感度を正確に把握することが必要とされます。図1は、接合型フォトダイオードのモデル図で、基本的な部品要素が図示されており、フォトダイオードの動作原理が説明されています。
図1:フォトダイオードの概略図
フォトダイオード関連用語
受光感度
フォトダイオードの受光感度は、規定の波長における、生成光電流 (IPD)と入射光パワー(P)の比であると定義できます。
Photoconductiveモード(光導電モード)とPhotovoltaicモード(光起電力モード)
フォトダイオードは、Photoconductiveモード(逆バイアス) またはPhotovoltaicモード(ゼロバイアス)で動作できます。 モードの選択は、使用用途で求められる速度と、許容される暗電流(漏れ電流)の量で決まります。
Photoconductiveモード(光導電モード)
Photoconductiveモードでは、逆バイアスが印加されますが、これが当社のDETシリーズディテクタの基本です。回路で測定できる電流量はフォトダイオードに照射される光の量を反映します。つまり、測定される出力電流は、入射される光パワーに対しリニアに比例します。逆バイアスを印加すると、空乏層を広げて反応領域が広くなるため、接合容量が小さくなり、良好な線形応答が得られます。このような動作条件下では、暗電流が大きくなりがちですが、フォトダイオードの種類を選ぶことで、暗電流を低減することもできます。(注:当社のDETディテクタは逆バイアスで、順方向バイアスでは動作できません。)
Photovoltaicモード(光起電力モード)
Photovoltaicモードでは、フォトダイオードはゼロバイアスで使用されます。デバイスからの電流の流れが制限されると電位が上昇します。このモードでは光起電力効果が引き起こされますが、これが太陽電池の基本です。Photovoltaicモードでは、暗電流は小さくなります。
暗電流
暗電流とは、フォトダイオードにバイアス電圧が付加されている時に流れる漏れ電流です。Photoconductiveモードで使用する場合に暗電流の値は高くなりがちで、温度の影響も受けます。 暗電流は、温度が10°C上昇するごとに約2倍となり、シャント抵抗は6°C の上昇に伴い倍になります。高いバイアスを付加すれば、接合容量は小さくなりますが、暗電流の量は増大してしまいます。
暗電流の量はフォトダイオードの材料や検出部の寸法によっても左右されます。ゲルマニウム製のデバイスでは暗電流は高くなり、それと比較するとシリコン製のデバイスは一般的には低い暗電流となります。下表では、いくつかのフォトダイオードに使用される材料の暗電流の量と共に、速度、感度とコストを比較しています。
Material | Dark Current | Speed | Spectral Range | Cost |
---|---|---|---|---|
Silicon (Si) | Low | High Speed | Visible to NIR | Low |
Germanium (Ge) | High | Low Speed | NIR | Low |
Gallium Phosphide (GaP) | Low | High Speed | UV to Visible | Moderate |
Indium Gallium Arsenide (InGaAs) | Low | High Speed | NIR | Moderate |
Indium Arsenide Antimonide (InAsSb) | High | Low Speed | NIR to MIR | High |
Extended Range Indium Gallium Arsenide (InGaAs) | High | High Speed | NIR | High |
Mercury Cadmium Telluride (MCT, HgCdTe) | High | Low Speed | NIR to MIR | High |
接合容量
接合容量(Cj)は、フォトダイオードの帯域幅と応答特性に大きな影響を与えるので、フォトダイオードの重要な特性となります。ダイオードの面積が大きいと、接合容量が大きくなり、電荷容量は大きくなります。逆バイアスの用途では、接合部の空乏層が大きくなるので、接合容量が小さくなり、応答速度が速くなります。
帯域幅と応答性
負荷抵抗とフォトディテクタの接合容量により帯域幅が制限されます。最善の周波数応答を得るには、50 Ωの終端装置を50 Ωの同軸ケーブルと併用します。接合容量(Cj)と負荷抵抗値(RLOAD)により、帯域幅(fBW)と立ち上がり時間応答(tr)の概算値が得られます。
雑音等価電力
雑音等価電力(NEP:Noise Equivalent Power)とは、出力帯域幅1 Hzでの信号対雑音比(SNR)が1になる入力信号のパワーです。NEPによって、ディテクタが低レベルの光を検知する能力を知ることができるので、この数値は便利です。一般には、NEPはディテクタの検出部の面積増加に伴って大きくなり、下記の数式で求めることができます。
この数式において、S/Nは信号対雑音比、Δf はノイズの帯域幅で、入射エネルギ単位はW/cm2となっています。詳細は、当社のホワイトペーパー「NEP – Noise Equivalent Power」をご覧ください。
終端抵抗
オシロスコープでの測定を可能にするためには、生成された光電流を電圧(VOUT)に変換する必要がありますが、負荷抵抗を用いて電圧変換します。
フォトダイオードの種類によっては、負荷抵抗が応答速度に影響を与える場合があります。最大帯域幅を得るには、50 Ωの同軸ケーブルを使用して、ケーブルの反対側の終端部で50 Ωの終端抵抗器の使用を推奨しています。このようにすることで、ケーブルの特性インピーダンスとマッチングできて共鳴が最小化できます。帯域幅が重要ではない特性の場合は、RLOADを増大させることで、所定の光レベルに対して電圧を大きくすることができます。終端部が不整合の場合、同軸ケーブルの長さが応答特性に対して大きな影響を与えます。したがってケーブルはできるだけ短くしておくことが推奨されます。
シャント抵抗
シャント抵抗は、ゼロバイアスフォトダイオード接合の抵抗を表します。理想的なフォトダイオードでは、シャント抵抗は無限大となりますが、実際の数値はフォトダイオードの材料の種類によって、10Ωのレベルから 数千MΩの範囲となる場合があります。例えばInGaAsディテクタのシャント抵抗は、10 MΩのレベルですが、GeディテクタはkΩのレベルです。このことは、フォトダイオードのノイズ電流に大きく影響を与える可能性があります。しかしながらほとんどの用途では、ある程度高い抵抗値であればその影響は小さく、無視できる程度です。
直列抵抗
直列抵抗は半導体材料の抵抗値で、この低い抵抗値は、通常は無視できる程度です。直列抵抗は、フォトダイオードの接触接続部とワイヤ接続部で発生し、ゼロバイアスの条件下でのフォトダイオードのリニアリティの主な決定要因になります。
一般的な動作回路
図2: 逆バイアス回路(DETシリーズディテクタ)
上図の回路はDETシリーズのディテクタをモデル化したものです。ディテクタは、入射光に対して線形の応答を得るために逆バイアス状態になっています。ここで生成された光電流の量は、入射光と波長に依存し、負荷抵抗を出力端子に接続すると、オシロスコープでモニタリングできます。RCフィルタの機能は、出力に雑音を載せてしまう可能性のある供給電力からの高周波雑音のフィルタリングです。
図3: 増幅ディテクタ回路
高利得用途でアンプとともにフォトディテクタを使用できます。動作時には、PhotovoltaicモードまたはPhotoconductiveモードのいずれも選択可能です。このアクティブ回路はいくつかの利点があります。
- Photovoltaicモード:オペアンプで、点Aと点Bの電位が同じに維持されているので、フォトダイオードでは回路全体では0 Vに保たれています。このことで暗電流は発生しなくなります。
- Photoconductiveモード: フォトダイオードは逆バイアス状態であるので、接合容量を低下させ、帯域幅の状態を改善します。ディテクタの利得は、フィードバック素子(Rf)に依存します。ディテクタの帯域幅は、下記の数式で計算することができます。
GBPが利得帯域幅積で、CDは接合容量と増幅器の静電容量の和です。
チョッパ入力周波数の影響
光導電信号は時定数の応答限界までは一定となりますが、PbS、 PbSe、HgCdTe (MCT)、InAsSbなどのディテクタにおいては、1/fゆらぎ(チョッパ入力周波数が大きいほどゆらぎは小さくなる)を持つため、低い周波数の入力の場合は影響が大きくなります。
低いチョッパ入力周波数の場合は、ディテクタの受光感度は小さくなります。周波数応答や検出性能は下記の条件の場合において最大となります。
PbSおよびPbSeフォトコンダクティブ型ディテクタ
硫化鉛(PbS)とセレン化鉛(PbSe)の2種類のフォトコンダクティブ型のディテクタは、1000~4800 nmの赤外域の光の検知に広く用いられています。 標準的なフォトダイオードは、光を受けて電流を発生させますが、フォトコンダクタの場合は、光が照射されると電気抵抗が低減します。 PbSとPbSeディテクタは室温で使用できますが、温度が変化すると、暗抵抗、感度や応答速度に影響を及ぼします(詳しくは下記の温度の影響の項目内をご参照ください)。
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動作原理
フォトコンダクタ材料においては、光が入射すると検出部内の電荷キャリアの数が増え、結果としてディテクタの抵抗が低下します。 抵抗値が変化するということは、すなわち測定電圧が変わるということであるために光感度を表す単位はV/Wとなっています。右図は動作回路の1例です。 なおこの回路には、低い周波数ノイズが存在することになるので、実際的な使用にはお勧めしません。
検知のメカニズムのベースとなっているのは、アクティブ領域の薄膜の導電性です。 入射光がないときのディテクタの出力信号は下記の数式で求めることができます。
光が検出部に当たるとき、変化量ΔVOUTは、ディテクタ抵抗の変化量ΔRDarkによって決まります。
周波数応答
フォトコンダクタでは、AC信号を得るために、パルス信号を入力する必要があります。 つまり、ディテクタに連続光を当てる場合は、光チョッパを使う必要があります。 チョッパ使用時のディテクタの応答値(Rf)は、下記の数式で求めることができます:
この数式において、fcはチョッピング周波数、R0は0 Hzにおける応答値で、τrがディテクタの立ち上がり時間となります。
チョッピング周波数の影響
フォトコンダクタの信号は、時定数応答の限界までは、一定であり続けます。 PbSとPbSeのディテクタには、1/fという典型的なノイズスペクトルがあり(つまり、チョッピング周波数の増加に伴い、ノイズが低減)、この特性は低周波数時の時定数に対して大きな影響を与えます。
ディテクタは、低いチョッピング周波数では低い応答性を示します。 下記の数式が成立する条件で、周波数反応と検出能は最大限となります。
ディテクタの立ち上がり時間についてはマニュアルの第5章(Chapter 5)をご参照ください。
温度の影響
これらのディテクタは、ガラス基板の上に薄膜を施した構造です。 適切なフォトコンダクタの形状やアクティブエリアは、動作条件で大きく変化し、性能も変わります。 特にディテクタの応答性は、動作温度の影響を大きく受けます。
PbSとPbSeのバンドギャップと温度特性の関係は負の係数で表されます。つまりディテクタを冷却するとスペクトル応答範囲が長波長側にシフトします。 適切な結果を得るには、ディテクタを安定的に管理された環境でご使用ください。
フォトコンダクタを用いた典型的な増幅回路
フォトコンダクタのノイズ特性を考慮した場合、一般的にはAC結合による動作が推奨されます。 印加されたバイアス中に存在するDCノイズは、高いバイアスレベルではかなり大きくなり、ディテクタとしての機能が損なわれます。 このような理由で、赤外域用のディテクタは、ノイズを制限するために、通常はAC結合されます。 ディテクタで生成された電流信号に対して、安定性と大きな利得を実現するためにはプリアンプの補助が必要となります。
下の概略図が示しているのは、オペアンプが、Bの入力に対して、フィードバックを利用してAを維持する機構です。 2つの入力電圧の差が増幅されて、出力されます。 ここでさらに注意しなくてはならないことは、増幅器への入力をAC結合する部分にはハイパスフィルタが有り、このフィルタがあらゆるDC信号をブロックすることです。 また、最大信号を実現するために、負荷抵抗器の抵抗値(RLOAD)は、ディテクタの暗抵抗と等しくなければなりません。 供給電圧(+V)は、信号対雑音比(SNR)が許容できる程度のレベルである必要があります。 用途によっては高い電圧が必要とされますが、その場合ノイズが増加することになります。 出力電圧は下記の数式で求められます:
増幅器のモデル図
信号対雑音比(SNR)
ディテクタのノイズは、チョッピング周波数と反比例の関係にあるので、ノイズは低周波数の場合の方が大きくなります。 バイアス電圧を増加させると、ディテクタの出力信号も線形の増加傾向を示しますが、低レベル時では、ノイズはバイアスの影響をあまり受けません。 設定電圧に達した後は、印加電圧にしたがってディテクターノイズは線形に増加します。 高電圧では、ノイズは指数関数的に増える傾向があるので、信号対雑音比(SNR)はさらに劣化します。 適切なSNRを得るには、チョッピング周波数とバイアス電圧を許容値に調整してください。
雑音等価電力(NEP)
雑音等価電力とは、SNRが1であるときに生成されるRMS信号電圧の値です。 NEPによって、ディテクタが低レベルの光を検知する能力を知ることができるので、この数値は便利です。 一般には、NEPはディテクタの検出部の面積増加に伴って大きくなり、下記の数式で求めることができます:
この数式において、S/Nは信号対雑音比、Δf はノイズの帯域幅で、入射エネルギ単位はW/cm2となっています。
暗抵抗
暗抵抗とは、一切光が入射しない時のディテクタの抵抗値です。 重要なポイントは、暗抵抗が温度の変化に伴い変化することです。 デバイスを冷却するとこで暗抵抗は増加します。
検出能 (D) と比検出能 (D*)
フォトディテクタの性能を評価する上で使用する数値として他に、検出能(D)があります。 検出能は感度を表す数値で、NEPの逆数となります。
検出能が高いということは、ディテクタの感度が高いということで、低い光出力の信号の検知に適すことを意味します。 検出能は、入射する光子の波長によって変化します。
ディテクタのNEPは検出部面積で決まりますが、言い換えるとNEPは検出能にも影響を与えます。 よってディテクタの本質的な特性を比較することが難しくなります。 影響を排除してフォトディテクタの性能を評価するためには、検出面積に影響を受けない比検出能(D*)が用いられます。
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