ファブリペロー干渉計のチュートリアル


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走査型ファブリぺロー干渉計

ファブリぺロー干渉計は、高分解能分光用の光共振器です。透過スペクトルの微細な特徴を高精度で検出および分解できるため、狭い線幅で狭い間隔のスペクトルピークを有するレーザ共振器の共振モードを決定するために使用されます。

空間モード構造


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図1: 低次TEMモードの空間モード構造。 図は「Further Development of NICE-OHMs」から再現しています。2

ファブリペロー干渉計の最も一般的な構成は、高反射ながら一部を透過する2枚の球面ミラーを向かい合わせた共振器です。このタイプの共振器は以下の一連のパラメータによって特徴づけられます。

  • 共振器の長さまたはミラーの間隔:L
  • 入射側ミラーの曲率半径:R1出射側ミラーの曲率半径:R2
  • 入出射および出射側ミラーの透過率:t1,2、反射率:r1,2、損失係数t1,2 + r1,2 + l1,2 = 1を満たしながら相互に関連)

入射側のミラーを通過して共振器に入った光波は、ミラーの反射によって2つのミラー間を何度も往復します。この間、光波には強め合う干渉と弱め合う干渉が生じます。強めあう干渉は光波を増強し、共振器内の電界を大きくします。これは、定在波が共振器ミラー間に形成される場合に起こり、その時、共振器の長さLは波長の半分の整数倍qλ/2に等しくなっています。この基準を満たしていない波長は共振されず、干渉を受けて弱まっていきます。

近軸波動方程式の一般的なガウシアンビームの解を仮定することにより、下記の周波数νqmnのみが共振器内に存在できることを示すことができます。1

ここで、qmnはモード数で、0以上の整数となります。cは光の速さです。共振器のgパラメータg1,2は下記の式で求められます。

ここで凹面ミラーに対してはR1,2、凸面ミラーに対してはR1,2 < 0となります。これらの周波数は、m,n次のTEMモードまたはエルミート・ガウシアンモードと呼ばれ、通常TEMm,nで表されます。モード数mおよびnは横モードに関連付けられ、光軸に垂直な強度パターンを表しますが、qは縦モードに対応します。m = n = 0のTEM00モードは、基本TEMモードまたは縦モードと呼ばれ、m,n > 0のTEMモードは、高次TEMモードと呼ばれます。図1では、さまざまなモードにおける空間強度パターンを示しています。インデックスmおよびnは、それぞれ垂直方向および水平方向のノード数に対応します。近赤外領域の光の場合、パラメータqは106のオーダーとなります。共振器のgパラメータはいわゆる安定性基準によく使われます。共振器は、そのgパラメータが0 ≤ g1g2 ≤ 1の条件を満たしているとき共振器は安定していると言われます。1 

ファブリペロー干渉計の透過スペクトル


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図2: :ミラーの反射率が99.7%、80%、4%ファブリペロー干渉計のモードスペクトルはそれぞれ青、赤、緑の曲線で示されています。 反射率99.7%は、1.5 GHzのFSR(フリースペクトルレンジ)を有するSA200シリーズを使用した時の値です。反射率4%は、平行する2枚のガラス面の間の反射から発生した典型的な「フリンジ効果」を示します。

光が基本TEM00モードに一致する空間モードの場合(つまり、ガウシアンビームの波面がミラー表面と完全に一致し、入射ビームが共振器の光軸にアライメントされている場合)、高次モード(m,n > 0)は発生しません。共振器の透過スペクトルは、パラメータqの値によって互いに異なるTEM00モードのみで構成されています。2つの連続したTEM00νq00およびνq+1 00は共振器のFSR(フリースペクトルレンジ)と呼ばれ、下記の式で表されます。

この式は、2つのミラーで構成されるすべての線形共振器に適用されます。モードqから離調した周波数qΔq = ν-νqに対する共振器の伝送強度Itは有名なエアリの公式3で求めることができます。

ここでI0は機器に入射する光の強度です。それ以外の値は上記と同様です。右の図2は、ファブリペロー干渉計の典型的な透過スペクトルを示しています。上の式をもとに、オンレゾナンスでの透過Tcresは下記の式で表されます。

これにより、オンレゾナンスでの透過はミラーの透過率だけでなく、反射率と損失係数にも依存することが明らかになります。すべてのミラーの係数はt1,2 + r1,2 + l1,2 = 1の数式によってお互いに関連づいています。 r1,2のセットに対して最大の透過率を得るために、吸収損失は可能な限り低く保たれています。

式(1)、(2)から、高次横モードの位置はミラーの間隔Lおよびミラーの曲率半径R1,2に大きく依存することがわかります。2枚のミラーの半径が等しい場合(R1 = R2 = R)や、ミラー間の距離がミラーの径と等しい場合( LR)は特殊なケースとなり、共振器は共焦点共振器と呼ばれます。図3は、光軸との距離がHで光軸と平行に共振器に入射するビームの典型的な光線追跡を示しています。 当社のすべてのファブリペロー干渉計はこのような共焦点干渉計の設計がベースになっています。この構成では、上の式(1) を次のように簡略化できます。

この式から2つの重要な結論を導き出すことができます。まず、すべてのモードは縮退しています。つまり、基本TEM00モードと同じ周波数を共有する高次のTEMモードが存在します(例えば、TEMq' 00, TEMq'-1 02, TEMq'-1 11, TEMq'-1 20, TEMq'-2 40, TEMq'-2 31, TEMq'-2 22, …はすべて同じ周波数を共有しています)。次に、スペクトルは規則的な等間隔モードの構造を示し、2つの連続するモード間の間隔はc/4Lで表されます。空間モードマッチングのために特別な注意が払われなければ、高次モードの圧縮はほとんど起きません。その結果、2つの連続した基本モード(TEMq00とTEMq+1 00)の間にいくつかの高次モードが存在し、モード間の間隔が等しいことにより、FSRがc/4Lと等しく見えてしまいます。高次モードの存在を説明するために、当社のファブリペロー干渉計のFSRに指定されたすべての値は、いわゆる共焦点フリースペクトルレンジνFSR,conf = c/4Lを参照しています。図4の矢印はνFSRνFSR,confの違いを強調しています。 共振器の光軸に沿った注意深いアライメントと、入射光のほぼ完全な空間モードマッチングにより、スペクトル内のほかのすべてのモードを消すことができます。下の図4は、ほぼ完全なモードマッチングの構成を示しています。高次モードもまだ存在していますが、基本モードよりも小さくなっています。アライメントをさらに調整すると、最終的にはスペクトル内にあるほかのすべてのモードが識別されます。



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図3: 共焦点ファブリペロー共振器の概略図。径R1 = R2(茶色の矢印)のミラーは、ミラーの半径に等しい距離Lだけ離れています。緑の実線は高さHで共振器に入る軸外入射ビームの光線追跡です。黄緑色の点線は2枚目のミラーを透過したビームを示しています。1枚目のミラーを透過した光は図に表示されていません。

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図4: ほぼ完全な空間モードマッチングを有する共焦点共振器のスペクトル。基本モードのみが励起されると、ほかのモードはすべて消滅します。TEMqmnのラベルは、特定の周波数に含まれる1つのモードのみを示します。すべてのモードは縮退しており、本文で説明されているように、同じ周波数を共有する他のモードがあります。

フィネスとモード幅(分解能)


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図5: 2つのローレンツ曲線のピークがFWHMだけ離れている場合、それらは分解可能なレイリの基準を満たします。

ファブリペロー干渉計の性能は、ミラーの反射率に大きく依存しますa。低反射ミラーは、より広い透過ピークを生成しますが、高反射ミラーは、より狭い透過ピークを生成します。ミラーの反射率は、干渉計の透過スペクトルの識別性能に大きな影響を与えます。ファブリペロー干渉計において、FSR(フリースペクトルレンジ)以上に重要な2つの値はフィネスとモード幅です。同一の反射係数rを有するミラーのフィネスFは、下記の式で求めることができます。

共焦点干渉計の場合、フィネスを次のように表わすと便利な場合があります。

フィネスが高い干渉計は、フィネスが低い干渉計よりも狭い透過ピークを生成します。つまり、フィネスが高くなると干渉計の分解能が向上し、近接した透過ピークをより識別できるようになります。レイリ基準(図5参照)によると、ピークが各ピークの半値全幅(FWHM)で分離されている場合(ΓFWHMで示します)、2つの同一のローレンツ曲線を識別可能です。FWHMモード幅は分解能とも呼ばれ、下記の式で共焦点共振器のフィネスとFSRに関連していることが示されます。

これは、識別される2つのピーク間の最小許容間隔の基準値です。例えば、FSRが1.5 GHz、フィネスが250の干渉計のFWHMは6 MHzであるため、ピーク値が少なくとも6 MHz離れていれば、透過スペクトルの特性を識別することができます。可視光の場合、これはおよそ10 fm(10-14 m)の波長分解能に相当します。

当社では1550 nmで反射率99.9969%の結晶コーティングミラーをご用意しています。これは反射係数0.99999またはフィネス314,158に相当します。これらの結晶コーティングミラーを使用した干渉計では約4.8 kHzの分解能が得られることになり、これは上で例示した同じ1.5 GHzのFSRを有する干渉計よりも4桁ほど鋭い信号が得られることになります。

フィネスに関する追加考察

測定して得られたフィネスには、ミラー反射率フィネス(上記ではシンプルにFで表されています)、ミラーの表面品質フィネス( FQ)、ミラーの照明条件(ビームアライメントと直径)依存フィネス(Fiといういくつかの寄与因子があります。システム全体のフィネス(Ft)は次の式4で求められます。

多くの場合、反射フィネス(式8)が実効的なフィネスとして使用されますが、これは他の要因が無視できる場合に限ります。当社の干渉計は、適切な照明で操作する場合、反射フィネスが支配的になります。b

数式(10)の第2項にはFQが含まれていますが、これはミラーの表面の凹凸を表わす数値で、スペクトルの左右対称の幅の広がりを意味します。このような凹凸があると、ビーム位置により光路長がばらつき、ピーク形状が不明瞭となります。共振器ミラー基板の製造工程では、共振器に関して当社が指定している総フィネスの仕様値と比較してFQの影響が無視できるほど小さくなるよう工夫がされています。つまり、基板の表面形状がフィネスの制限要因になることはありません。

ビーム径が拡大するにつれ、また入射ビームの光軸からのオフセットが大きくなるにつれ、数式(10)の最終項の照明フィネスFiが干渉計の分解能を悪化させます。フィネスがFiの項に制限される時、測定ピークは非対称となります。この非対称は、軸上の光線と軸外の光線の光路長の差に起因し、ミラー間隔が異なるため、最大透過基準を満たさなくなるという結果をもたらします。

Fiによる光路長変動の影響を定量化するために、理想的な単色入射、単位振幅を有する波長のデルタ関数、光軸と同軸にファブリペロー型共振器への入力、光線半径がaである光を想定します。光が干渉計にH = +eの位置で入射したときに、eがゼロではないが無限小の場合、透過スペクトルの差は最小限になります。一方で、H = +a の位置で光が共振器に入る時、透過出力スペクトルはシフトします。これは共振器の光路長が概算でa4/R3短くなるからです。入射光線の強度が均一だとすると、透過スペクトルは光路長のシフトの影響で、強度が均一かつ広がって見えます。結果として、波長のデルタ関数によって、FWHMが H4/R3の出力ピークが生成されます(Ref. 6参照)。


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図6: 式(12)を使用して、ファブリペロー干渉計SA200およびSA210におけるビーム径2Hと総フィネスFt の関係を示したグラフ。フィネスは633 nmの波長λで計算しています

Fi のみが総フィネスに大きく影響すると仮定すると、上記の理想的な入射光線の場合には、Fiを計算するために数式(9)を用いることができます。FSRの代わりにλ/4、そしてFWHMの代わりに(H4/R3)を代入すると下記の数式が得られます。

1つの縦モードから次のモードに変化するために、共振器がλ/4拡大することを考えれば、FSRにλ/4を代入する理由がわかります。実際のスペクトル分布を持つ入射光線の場合は、このようなシフトが連続的に起きていると考えられます。なお、シフトは常に一方向である点にご注意ください。このためにビーム径が大きすぎたり、アライメントが悪い場合には、非対称であったり、広がったスペクトルが観察されます。

高反射ミラーを使用した場合の総フィネス(r ≈ 1)は式(10)を用いて求められます。この式にはFおよびFiから受ける大きな影響も含まれています(注:Fqが Ftに与える影響はごくわずかであるとみなしています)。

式(12)によって、ファブリペロー干渉計の総フィネスに対するビーム径の影響が予測できるため(一般的に予測値は大きくなっています)、いくつかの仮定を行ってみました。まず、ビーム径とミラー径が等しいと仮定します。実際には、ビームの直径は通常、ミラーの直径よりも大幅に小さく、球面収差は小さくなります5。次に、光が限りなく小さなウエストサイズに集光される場合を仮定します。 単色光の場合でも、最小ウエストサイズは回折によって制限され、マルチモードの用途では、焦点でのウエストサイズが非常に大きくなることがあります。図6は、キャビティ長がそれぞれ50 mmと7.5 mmのファブリペロー干渉計SA200およびSA210について、633 nmにおける式(12)を表しています。このグラフの軌跡は、反射率フィネスがSA200では250、SA210では180であると想定されていますが、この数値は干渉計に使用されるミラーの典型値です。

キャビティリングダウン時間とキャビティ内電力の蓄積

光波は共振器内を何度も往復するため、光は一定時間内部に蓄積され、入射側または出射側のいずれかのミラーに当たる際に、そのエネルギのごく一部が漏れます。つまり、光波には共振器内での一定の寿命があります。この寿命はキャビティリングダウン時間またはキャビティ蓄積時間τcavと呼ばれ、下記の式で表されます。

この式からτcav が増加すると共振器のフィネスも増加することがわかります。つまり、フィネスおよびミラーの反射率が高くなるほど、光が増幅器内に蓄積される時間が長くなります。同様に、もう1つの重要な数量はいわゆる共振器内電力の蓄積で、共振器内強度 Icの比および下記の入射強度によって定義されます。

入射強度は、インピーダンス整合共振器(つまり、オンレゾナンスでの反射を消滅させる)ではF/π で求められます。これは下記の式によって内部共振器と関連付けられます。

共振器内に保存されるパワーがフィネスとともに増加するという事実は、高い入射パワーを持つビームをファブリペロー干渉計で評価する場合に留意する必要があります。

スペクトル解像力とエテンデュ

干渉計のスペクトル解像力はスペクトル分解能を定量化する基準であり、レイリ基準の拡張です。スペクトル解像力SRは下記の数式で表します:

ここで ν は光の周波数、λ は波長です。共焦点ファブリペロー干渉計では SR を下記の数式で求めることができます:

ここで、Fは干渉計のフィネス、Rはミラーの曲率半径、λは波長です。しかしながら干渉計が走査モードであるときに、干渉計がこの最高性能を達成するには、ディテクタの開口が限りなく小さくなる必要があります。開口が大きくなるにつれて、スペクトル分解能は低下します。スペクトル分解能と干渉計のエテンデュとのバランスの最適化が求められます。エテンデュ(U)は、干渉計の集光力を表す数値です。光源がレーザである場合、エテンデュによって干渉計とレーザ光線のアライメントのトレランスがわかります。エテンデュとは、許容される最大の立体角(Ω)と許容される最大開口の面積(A)との積で定義されます。共焦点システムにおいてエテンデュは下記の数式で求められます:

ここで、Fは干渉計のフィネス、λは波長、Lはミラー間の間隔です。干渉計を適切に使用するには、分解能とエテンデュのバランスを保つ必要があります。適切な数値でバランスを保つには、スペクトル分解能が70% (0.7*SR) となるまでミラーの開口を増大させます(Ref. 4)。この条件では「理想の」エテンデュはπ2λR/Fとなり、この時のRはミラー半径となります。

一般的な用途例を含む、当社のファブリペロー干渉計の詳細についてはこちらをご覧ください。


参考文献

  1. P. W. Milonni and J. H. Eberly, Lasers (John Wiley & Sons, Inc., 1988) p. 302.
  2. P. Ehlers, Further Development of NICE-OHMS, Ph.D. thesis, Umeå University, Sweden, 2014.
  3. D. Romanini et al., in Cavity-Enhanced Spectroscopy and Sensing, edited by G. Gagliardi and H.P. Loock (Springer, 2014), Vol. 179, Chap. 1, pp. 1 - 60.
  4. M. Hercher, "The Spherical Mirror Fabry-Perot Interferometer," Applied Optics, vol. 7, no. 5, pp. 951 - 966, 1968.
  5. J. Johnson, "A High Resolution Scanning Confocal Interferometer," Applied Optics, vol. 7, no. 6, pp. 1061 - 1072, 1968.
  6. W. Demtröder, Laser Spectroscopy, Vol. 1: Basic Principles, (Springer, 2008) p. 152.

脚注

  1. 光路長および、光路長から得られるFSR(フリースペクトルレンジ)、フィネス、モード幅は、干渉計の光軸からのビームオフセットhに依存します。つまり、最適な性能を得るためには、ビームを光軸に正しくアライメントする必要があります。また、干渉計に当たるガウシアンビームの曲率半径は、この反射面となるミラーの曲率半径と等しくなければなりません。ビームを適切にコリメートすることで、ファブリペロー干渉計ページの「アライメントガイド」タブ内のレンズに関する推奨事項に従って十分な性能を得ることができます。
  2. 当社のすべてのファブリペロー干渉計の反射コーテイングは、 Fの最小値が、各モデルの全動作波長範囲において最小の指定フィネス仕様値の1.5倍より良くなるように設計されています。

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